先日、VOCALOIDオリジナル曲で【IA】『ZERO』【オリジナル曲】by YOSAGYOを投稿しました。

こちらの曲はジャンルとしてはボカロックです。これでもかと言わんばかりに重厚なバンドサウンドにしました。この記事ではこの楽曲のアレンジについて解説していこうと思います。

アレンジで一番意識しているのはバランス感

まずはじめに具体的な内容よりも先に述べておきたいことがあります。それはレッスンでもよく質問されることなのですがそれはアレンジで一番何を意識しているか?ということです。
結論を申しますとアレンジで一番意識していることはバランス感です。このバランス感というのは原曲を変えすぎないかつ意外性やドラマチック性を曲に出すために必要な感覚だと僕は考えています。
アレンジはほいほい展開を作りまくってとにかく1番と2番を変えれば良いなんてことではありません。聴き手が落ち着いて聴けるかつ飽きがこない展開を演出するのがセンスの良いアレンジだと考えています。そのために必要な要素として
  • メロディーの規則性
  • 自然とノリやすいリズム
  • 耳馴染みが良いかつ不自然でないコード進行
  • 適度な音色の数
  • 絶妙な変化
大きく分けてこれらが大切だと僕は考えています。特に絶妙な変化は先ほどから述べているバランス感になります。「とにかく展開を変えなきゃ」という一心でごちゃごちゃしたアレンジをしたばっかりに聴いていて落ち着きがない曲になってしまうと聴き手としては1回聴いただけでお腹いっぱいな曲に感じられてしまいます。
かといって使い回しが多い曲にしてしまうと単純に飽きやすい曲になってしまいます。どちらにもならないために僕はアレンジではバランス感を1番大切にしています。

パワーコードはエレキギターの良さを引き出す相性抜群のコードトーン

この曲ではエレキギターならではの良さを全面に出してみました。ギターならではの良さの大きな一つは音の太さや重厚さをサウンドに演出できることです。
この曲ではギターはほぼパワーコードで弾いております。ギターのパワーコードを軽視する人がたまにいますがそういう人はギターという楽器の音色の特性を把握していないと僕は考えています。
例えばピアノにディストーションをかけてパワーコードで演奏したとしたら同じような重厚さをサウンドに演出できるでしょうか?答えとしてはNoです。
その楽器の良さを出すために合ったコードトーンが存在すると僕は考えており、エレキギターの音色の良さを引き出すにはパワーコードとの相性が抜群に良いから今回作ったボカロックでは基本パワーコードを使用しているわけです。
実際に数多くのアーティストもギターロックを作るならばギターはパワーコードにしてしまった方がリードギターのリフや他のリードサウンドの邪魔になりにくいと考える方もいます。
この曲ではもちろん全てパワーコードではなく7thや9th、sus4、転回コードを使用しているシーンも一部あります。

どっしりとした印象のあるシーンではリードギターはオクターブ奏法で存在感を出す


この曲ではリードギターではオクターブ奏法を多めに入れてみました。動画でも解説していますが特に1番Bメロはわかりやすいはずです。
オクターブ奏法は奏法自体も簡単で初心者でもすぐに演奏できますのでオススメです。Bメロでは一回し目でオクターブ奏法、二回し目でアルペジオにしています。どちらも基礎的な演奏能力があれば可能な演奏方法ですがリードサウンドとしては十分な存在感を出してくれます。
特にこの曲のBメロのようなどっしりとした印象のあるシーンでは手数が多いギターフレーズよりもシンプルで存在感のあるフレーズの方が全体的に上手くまとまりやすいことがあります。

ボーカルディレイで浮遊感と印象強さを演出

こちらもBメロのアレンジですがこのシーンではボーカルにディレイを発生させています。
「Day By Day〜」
「今も」
このような歌詞の場面になります。具体的な秒数としては0:47~に当ります。このメロディーライン自体がリフレインしていますがさらにディレイで繰り返して聴かせることで印象強さを与える狙いです。
ちなみにですがエフェクトでディレイさせているわけではありません。ボーカロイドのトラックを一度オーディオに書き出し、再生位置を手動でずらすことでディレイ効果を演出しています。
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プラグインのディレイを使わない理由としてはボーカルの場合だとオートメーションでON/OFFを書いたとしても狙ったディレイ感にならない時や、ディレイ臭さが出てしまう時があるからです。
特にボーカルの場合は躊躇に機械感のあるディレイ臭さが出やすい。それを防ぐために手動ディレイにしています。このようながっつりエフェクトとしてディレイを起こす場合はボーカルなら特に音色的にも手動の方がしっくりくることが多いと感じています。
Cubaseならインプレイスレンダリングとダイレクトオフラインプロセシングを使えば簡単にできます。

サビはシンコペーションを多用してリズムに勢いを出した

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サビのキックは基本シンコペーションをして通常の8ビートよりも勢いを出すように意識しています。

シンコペーションとは何?という方は解説動画を作っていますのでご覧ください。
このようにキックがくって入ることでリズムに前のめりな印象を与えることができます。リズムがどうしても平面的な感じになってしまうという方はぜひ使ってみてください。

アレンジはリズムのノリ方で印象を変える

この曲の大きな特徴の一つとして曲中でリズムのノリ方を変えています。特にわかりやすいシーンとしては2番Aメロ、ラスサビがわかりやすいです。
「アレンジは意外性を出すためにとにかくどこかで転調しなきゃいけない」このような考えで安易に転調をしてしまうことはないでしょうか?個人的には転調は中級者以上のテクニックだと考えていて、作曲初心者が安易に転調をしても意外性よりも違和感の方が勝ってしまうケースがよく見られます。
ちなみに今回の曲では転調は使わずに曲の意外性を演出することを意識しています。アレンジではコードワークと同じくらい大切なのがリズムだと僕は考えています。
わかりやすくストレートに言うならば転調を使わなくともリズムのノリ方を変えてやることでいくらでも意外性やドラマチック性の演出は可能だということです。
作曲初心者はまずはリズムにとにかくこだわれと声を大にして言いたいです。
この曲では2Aでは1Aメロに対して跳ねるリズムに変えています。(1:42~)このシーンはコード進行もメロディーラインも1Aとまるっきり同じですが聴いた感じの印象は1Aと2Aではノリ方が大きく違うはずです。これがリズムのノリ方を変えることで聴き手に意外性を与えるトリックです。
さらにはラスサビに注目して聴いていただきたい。3:27~からの部分ですがここでは一瞬だけラテン系を意識したリズムにノリ方を変えています。縦ノリではなく横ノリに変えているわけです。さらには3:32~ではハイハットを裏打ちにしてリズミカルな印象を与えています。
このようにさりげない細かなリズムのノリ方の違いを加えることで転調を使わずとも飽きさせないアレンジを心がけています。

2Bを思い切って変えてみた

2Bは2:00~になりますが1Bとはコード進行もメロディーラインも思い切ってガラッと変えています。ここでは
陰る僕たちの時間は巻き戻せない(2:01)
嘆くカナリヤを(2:10)
のメロディーラインは同じにしています。
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↑陰る僕たちの~のメロディーライン
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↑嘆くカナリヤを~のメロディーライン
思い切って2Bは1Bと比べて変えていますが聴き手の捉え方によっては展開が増えすぎと感じられてしまいかねません。なので僕のアレンジのバランス感覚としては少々冒険したと言ったところでしょうか。
この2Bではメロディーラインがいわゆる美メロを意識してみたのですがさりげなくピアノも入れることで優雅さや美しさの演出も意識しています。

Cメロでは不安定さと緊張感のあるコードを使用

Cメロにあたる部分(2:44)では
  • A♭→Bdim→Cmin9
というコード進行が登場します。このコード進行は不安定さと緊張感を混ぜ合わせた響きになり、独特な浮遊感が生まれます。A♭とCimn9の間にBdimを入れているのがポイントです。このBdimはパッシングディミニッシュとして使っており、A♭とCmin9を繋ぐ役割をしています。
そしてBdimのものすごく不安定な響きが故にCmin9の緊張感を引き立たせてくれます。まるで高いところから落下するような感覚すら与えてくれます。このコード進行に加え、このシーンではどの楽器も手数を少なめにして浮遊感を演出しています。

曲中に遊びや冒険を入れる

アレンジをする上で最も良くないことが安牌を切り続けることだと考えています。
「アレンジを思い切ってやりすぎて周りから変な曲だと思われたらどうしよう」このような思考で編曲をしてしまっては面白みのある曲は絶対に生まれません。
結果としてどこかで聴いたことがあるような印象に残らない曲を量産してしまいます。そのため僕は意識的に曲中でいわゆる遊びや冒険を入れることにしています。この遊びの部分では例え周りから変だと言われても胸を張り続けることが大事です。
「自分の曲ぐらい自分が主人公でいなくてどうするんだ」それぐらいの尖りがないと音楽などやってられません。今回の曲の具体的な遊びや冒険の部分としては2:26~です。
この部分では僕も初めて試みですがドラム音源とEDMで使うようなサンプル音源を組み合わせた音色にしてみました。
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金物はBFD3。キックとスネア、クラップはサンプル音源と言った組み合わせです。リードサウンドとしてグロウルベースを入れているため、ダブステップの要素をこのシーンでは感じさせたいと言う狙いがあったため、思い切ってみました。
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グロウルベースは主にMASSIVEで作っています。
この遊びや冒険ではもう一つの狙いがあります。それは自分のサウンドを決定づかせるような、いわゆる自分らしいサウンドを根付かせるための試みでもあります。
「あの人らしい音色、フレーズだ」
「あの人といえばこの特徴的な音だ」
などといった自分らしいサウンドを曲中のどこかで感じさせるためでもあります。要は量産型の作曲家にならないための取り組みということです。
初心者は最初はひたすら真似から入れば良いというのは大いに賛成なのですがいつまでもそれをしていては聴き応えのない作曲家になってしまいます。中級者になるタイミングぐらいでこの遊びや冒険を是非とも意識していただきたい。

アコースティックな編成でも良い曲だと思えるかどうかが大事

これは作曲の段階の話に近いですが本当に手応えのある曲はアコースティックな編成でも胸を張れるものになります。
例えばピアノとボーカルだけの状態でも良い曲というのはその美しいメロディーラインやコードワークから自然と聴き込めるものになります。
なのでアレンジに移る前に確認作業としてアコースティックな編成で聴いてみて手応えを感じられるかどうかを意識してみることをオススメします。

ボーカルでクオリティは良くも悪くも全て決まる

楽曲のクオリティの良し悪しを決定する最終材料はボーカルにあると僕は考えています。
どれだけ曲が良くて、どれだけアレンジが良くてもボーカルのクオリティが低ければ全てが台無しになります。それくらいボーカルは責任が重大で楽曲の全てを背負う存在です。
個人的にはカラオケで歌えるレベルはボーカルとは言わないと思っているくらいです。楽曲のクオリティが100の持ち点があるとすればマイナスにするのはボーカルと言えず、本当のボーカルは持ち点の100点から120、もしくは150にするほどの存在だと考えています。
きっちりとした歌を歌うなんてのはボーカルとしてもはや当たり前のことです。ボーカルがアレンジで加わる部分としてはハモリやコーラス、ボーカルエフェクトになります。ボーカルアレンジまでできてこそ真のボーカリスト。
作曲者は空間系エフェクトを入れるタイミングまでしっかり決めることで曲の世界観を作り出します。
例えば2:46の「崩れたビル群の中、僕の声響き渡った」というシーンではその世界観をボーカルで表現するためにホール系のリバーブを加えています。
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↑ホール系のリバーブをエフェクトとして使用した。この場合はインサートで挿している。
このように曲の世界観にあったエフェクトやハモリ、コーラスのアレンジまで意識することで持ち点の100点から最後の+αを決定づけることになるということです。

おわりに

いかがでしたか?今回はボリューミーな内容になりました。今回の楽曲のアレンジで僕が意識したことをかなりこと細く書いたつもりです。
特にバランス感覚というのは常に意識していることで第三者の視点になって冷静にもう一度曲を見直して判断をするというのは日頃からしています。
僕はDTMオンラインレッスンをしておりますので興味がある方はTwitterのDMもしくはHPからお気軽にご連絡ください。
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というわけで今日はこの辺で!ではまた